I インドネシア現地調査
I-2 セクター・プログラム・ローン(500億円10月16日借款契約、1,000億円12月24日借款契約)
I-2-1 事業の内容・効果
インドネシアでは、1988年度よりセクター・プログラム・ローンが実施されてきた。金額は、1980年代後半から1990年代初めには毎年600億円前後であったが、1990年代中期には200億円から300億円ほどの水準となっていた。この借款は、円価を国際収支改善のために利用し、積み立てられた見返り資金で、小規模プロジェクトを実施するものである。事業実施分野は、当初は道路や灌漑など経済インフラであったが、次第に学校、居住インフラ、保健所など社会インフラに変化していった。
1998年度に実施されたセクター・プログラム・ローンは、1998年7月30日に行われたインドネシア支援国会合で我が国が1,500億円の供与を表明したものである。金額が大きいこと、迅速に支援を行う必要があったことから、支援内容の固まった500億円について10月16日に交換公文を締結し(INP-221)、その後1,000億円分について12月24日に交換公文を締結した(INP-23)。
積み立てられた見返り資金で実施する事業は、以下の8つの分野であった。地方政府分野に全体の3分の1以上が配分されている。
- 農林業分野(341億円、末端灌漑水路のリハビリ、農道整備、漁港整備、社会林業プロジェクトなど)
- 水資源分野(143億円、排水や溜池の修復・改善、灌漑施設の修復・改善、小規模洪水防御プロジェクト)
- 農林水産業分野(84億円、エビ養殖インフラ整備、エビ・魚卵孵化場整備、養鶏センター整備、屠殺場改善)
- 社会福祉分野(35億円、身障者支援センター整備、僻地農村・貧困層・児童・老人支援、スラム地域改善災害被災地改善)
- 保健・衛生分野(68億円、地域保健所整備、感染症制御・環境改善、食品・薬品管理、地域拠点病院修復)
- 道路分野(134億円、道路・橋梁改修)
- 居住環境分野(98億円、給水施設整備、排水施設整備、住宅地域インフラ整備、農村開発拠点インフラ整備)
- 運輸分野(27億円、鉄道リハビリ、フェリーターミナル整備、地方空港拡充、地方港湾整備)
- 地方政府分野(521億円、末端灌漑水路リハビリ、小学校修復、市場整備、保健関連施設整備など)
事業は、分野ごとに異なる省庁が実施したが、全体の調整はBAPPENASが行った。また、BAPPENASは地方政府分野の事業実施官庁でもあった。このBAPPENASの全体の調整を支援するために、INP-22、INP-23とも全体の金額の3パーセントをコンサルタントの雇用に配分することととされており、INP-22では国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)を全体のコーディネーションを行うコンサルタントとして雇用することが決められていた。
農林水産、水資源、道路、居住環境、地方政府分野ではインターナショナルコンサルタントが雇用され、概ね当初の計画どおりに事業を実施した。
インターナショナルコンサルタントが雇用された上記分野では、これら事業の社会経済効果に対する評価分析を行っている。例えば、地方政府分野では、4,300万人日の雇用が発生し、全国平均で失業者の5.9パーセントを同分野の雇用で吸収した。また、水資源分野では、1999年4月から2000年12月までに1,670万人日の雇用が発生した。全期間平均すれば27万人の雇用を発生させていたことになる。
I-2-2 現地踏査およびインドネシア政府関係者へのインタビュー
ジョグジャカルタ特別州バントゥール県の地方政府分野の事業を訪問した。以下の5つのプロジェクトサイトを現地踏査し、事業の実施によりプラス・マイナスのインパクトを受けた周辺の住民とのステークホルダー会議を行った。
- 郡市場の改修(2億2000万ルピア(281万円2)、)
- 小学校の校舎建替え(1億9500万ルピア(250万円)、)
- 排水整備(450m、1億8400万ルピア(235万円))
- 村道整備(1763m、1億2700万ルピア(162万円))
- 県道改修(3km、5億2000万ルピア(665万円))
- 州道改修(13km、22億1900万ルピア(2840万円))
以下は中央政府関係者、地方政府の役人へのインタビュー、ステークホルダー会議での発言である。
- 見返り資金は、経済危機のために不足した社会セクターの予算の補填、経済危機のためにジャカルタから地方に戻った労働者の雇用確保、インフラ利用による利便性の向上、インフラ利用による経済活動の活発化などの効果を挙げた(中央政府、地方政府)
- 見返り資金による事業は雇用発生に貢献したが、整備されたインフラが計画どおりの効果をあげていないケースも見られる。例えば排水や道路の場合、ネットワーク全体が完成して初めて計画どおりの効果が得られるが、今回の事業では全体のネットワークのごく一部が整備されたケースが多い(コンサルタント)
- 水資源分野では、事業を行うなかで事業資金の配分方法に変化が見られた。初年度は中央が主体的に事業資金の配分を行っていたが、次年度には州政府が主体的に事業資金を操作するようになり、州レベルで事業資金が余っているのに中央政府に返却されない事態も発生した(コンサルタント)
- 農林水産業分野、農業分野は8つの分野の中で事業の進捗が遅れてしまったが、中央政府の再編の影響を受けたことがその大きな理由である(コンサルタント)
- インドネシアでは以前から小規模プロジェクト型のセクターローンやセクター・プログラム・ローンを行っており、多数の小規模プロジェクトの形成・選定・実行の経験を持っていた。これが、社会的、政治的混乱の中でも短期間で事業を進めることのできた大きな理由である(コンサルタント)
- このような形の支援をこれからも継続して行ってもらいたい(地方政府)
- これらの事業が日本の円借款の見返り資金で行われたことを認識している(地方政府)
- セクター・プログラム・ローンで整備・改修されたインフラよって便益を受けることができたと考えている。例えば、排水事業の実施によって生活道路に水が溢れることがなくなった、ジョグジャカルタ市内中心部から海岸までの州道路の整備によって、観光客が増加して経済活動が活発になった、郡市場で販売するものの価格が上昇した、小学校の校舎の立替によって教室数が増え、3部授業が2部授業になったなど、具体的な便益が指摘された(住民)
- 事業の実施には住民も主体的に協力した。小学校の校舎増築ではPTAが校庭と遊び場の整備を行った。村道の整備では、沿道の住民が建設作業員に昼食を提供し、道路わきの排水溝を整備するための資金を自ら負担するなどの負担を行った
- 事業のマイナスインパクトは、事業実施に伴う住居の移転であった。事業の実施に伴う便益はさして大きくなく、マイナスインパクトのほうがずっと大きかった(住民)
- 事業が日本の円借款の見返り資金で行われていることを知る住民はほとんどいない。これは、資金が見返り資金という、日本からの直接的な資金でないこと、各事業の規模が小さく、事業が日本の援助によるものであることを示す看板が立てられていないこと、世界銀行、アジア開発銀行の実施したローンプロジェクトとセクター・プログラム・ローン・プロジェクトが複雑に絡み合っているためと考えられる(コンサルタント)
1 INP-22、INP-23は旧OECF(現JBIC)のローン番号である。
2 2000年の為替レート